大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(ラ)1806号 決定

抗告人

宮坂浩

右代理人弁護士

田中信人

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件を東京地方裁判所八王子支部に差し戻す。

理由

一  本件執行抗告の趣旨及びその理由は、別紙執行抗告状記載のとおりである。

二  一件記録によると、執行裁判所は、平成七年五月九日、原決定別紙物件目録記載一ないし三の不動産(以下「本件不動産」という。)について、不動産競売開始決定(以下「本件競売事件」という。)をし、次いで、平成九年五月二二日、本件不動産について最低売却価額を一九一八万円、入札期間を同年八月五日から同月一二日まで、開札期日を同月一九日午前一〇時、開札場所を東京地方裁判所八王子支部売却場、売却決定期日を同月二一日午後一時と定めて期間入札を実施する旨を決定したこと、抗告人は、同月五日、執行裁判所所定の入札書用紙の事件番号欄に「平成九年(ケ)第一〇一三号」、物件番号欄に「一〜三」、入札人欄に「東京都小平市回田町二六九番地の一五宮坂浩」、入札価額欄に「二一五〇〇〇〇〇円」、保証の額欄に「三八三六〇〇〇円」とそれぞれ記載し、右入札人欄の宮坂浩名下に押印をした上(以下、右入札書を「本件入札書」という。)、本件入札書を「入札書在中 東京地方裁判所八王子支部」と記載された執行裁判所所定の封筒に入れ、同封筒の表の開札期日欄に「平成九年八月一九日午前一〇時」、事件番号欄に「平成六年(ケ)第一〇一三号」、物件番号欄に「一〜三」とそれぞれ記載して、これを執行裁判所の執行官に提出したこと、本件不動産に対する期間入札には、抗告人のほか、中山悟が参加し、入札金額を一九二三万六〇〇〇円、保証の額を三八三万六〇〇〇円等と記載した入札書を執行裁判所執行官に提出したこと、執行裁判所は、平成九年八月二一日午後一時に開かれた売却決定期日において、本件競売事件の事件番号は「平成六年(ケ)第一〇一三号」であるところ、抗告人が執行官に提出した本件入札書には、事件番号が「平成九年(ケ)第一〇一三号」と記載されており、抗告人の買受申出は本件入札期間に指定されていない事件を対象としてされた無効なものであるとして、売却不許可の原決定を言い渡したことが認められる。

三  抗告人は、本件入札書は、その事件番号欄に「平成六年(ケ)第一〇一三号」と記載すべきところを「平成九年(ケ)第一〇一三号」と誤記したものであり、そのことは、本件入札書を含む入札関係書類の記載から容易に判断されるから、原決定には、民事執行法七一条七号の解釈を誤った違法があると主張する。

不動産競売における入札が適正かつ公正に、しかも、その開札が簡易、迅速に行われるために、入札における入札者の意思は入札書の記載によって一義的に判断されることが望ましく、入札書以外の関係書類の記載によって入札者の意思を解釈することは原則として許されないものというべきである。しかしながら、入札書を含む入札関係書類の記載から入札書の記載が明らかに誤記であると認められ、かつ、入札者の真の意思を客観的、一義的に判断することができるような場合にまで、入札書の記載に右のような不備があることを理由として直ちに無効な入札であるとして、当該入札書を入札から排除することは相当でなく、右のような場合には、入札関係書類の記載から客観的、一義的に判断されるところに従って入札書における入札者の意思を解釈する必要があるものというべきである。本件においては、右に認定したとおり、本件入札書の事件番号欄に本件競売事件の事件番号でない「平成九年(ケ)第一〇一三号」が記載されていたが、それも、事件受理の年が異なるだけで、受理番号は同一であったのであり、しかも、そのほかの本件入札書の物件番号並びにこれを入れた封筒の開札期日及び事件番号の各記載は、いずれも、本件競売事件のそれと合致していたのであり、さらに、本件入札書を封入した封筒は本件競売事件に対する入札として執行裁判所の執行官に提出されたのであるから、本件入札書の事件番号欄の前記記載は「平成六年(ケ)第一〇一三号」と書くべきところを誤って「平成九年(ケ)第一〇一三号」と記載したもので、抗告人は本件競売に入札する意思で本件入札書を執行裁判所の執行官に提出したことが客観的に、かつ、一義的に明らかであるというべきである。したがって、本件入札書の事件番号の記載が本件競売事件のそれと合致しないことから、直ちに、抗告人の買受申出が本件入札期間に指定されていない事件を対象とした無効なものであるとして、抗告人の買受申出に対して売却不許可決定をした原決定には民事執行法七一条七号の解釈を誤った違法があるものといわなければならない。

四  よって、本件抗告は理由があり、抗告人の買受申出に対して売却不許可決定をした原決定は違法であるから、これを取り消し、なお原裁判所において更に右買受申出に対する売却の許否の審理を尽くさせるのを相当と認め、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官石井健吾 裁判官星野雅紀 裁判官杉原則彦)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例